写真:奥村浩司(Forward Stroke inc.)
今回も、展示施設とグラフィックの密接な関係について、書かせていただきます。
これもかなり前の物件なのですが、宮澤賢治さんの生誕100年を記念して、岩手県花巻市に「宮沢賢治童話村」そしてその中の最初の施設「賢治の学校」という施設をつくるお手伝いをしました。この施設の付近には、既に「宮澤賢治記念館」というミュージアムと「イーハトーブ館」という研究施設がありましたから、この施設は宮澤賢治の童話を読んだことのない方に童話を読んでもらうきっかけを与えるという役割を持たせることにしました。そのため、専門性を持った学術研究の場というよりむしろ、アミューズメントやエンターティメントの要素を高めて童話に興味を持ってもらえるような空間としました。さらに、来場者が一方的に受動するだけではなく、“あたかも童話や絵本を読むように、来場者のイマジネーションを喚起させることができるような空間”。言い換えると“来場者と空間が対話できるような場”を目指しました。
そうして完成したのがこの写真です。イーハトーブを「宇宙」「天空」「大地」「水」に分けた最初の空間、宮澤賢治の童話世界の心象宇宙を体感する空間です。賢治は星が大好きで、童話の中にもさまざまな星座が出てきます。西洋の星座だけではなく、東洋や、自分で作った星座さえも。そして、私たちの心も「宇宙」として捉えることで、生きている時間も、さらにその先の時間も宇宙のゆっくりとした時間と無限の拡がりの中にいつも間にか一緒になって溶け合う。と語っています。
私たちは、宮澤賢治の童話の中から星座たちをピックアップして、イラストに描き起こし、それらをコラージュしました。これは、実際の星座に沿うのではなく、(あえて言うと)童話の関連性やイラストレーターの感性をベースにそしてレイアウトしています。そして、この星座を万華鏡や無限反射というミラーを使ったギミックで空間にしました。
演出的な要素にも、グラフィックやアートは密接な関係を持っているのです。