空間のデザインを発想するとき、私の場合には実際のインテリア空間からインスピレーションを受けることよりも、自然とか、プロダクトデザインとか、工芸品とか、絵画とか、童話とか、小説からイマジネーションを沸かせることが多いような気がします。
2008年にスペインのサラゴサという街で開催されたサラゴサ博覧会の日本館に、基本設計から参加させて頂いた時の話をします。
このサラゴサ博覧会は水をテーマとしていました。日本館では“世界的な大都市でありながら美しい川を維持し、ぴったりと寄り添い活かしてきた江戸時代の人々の川に対する工夫と知恵”について語っています。日本ならではの四季を背景に、下流から上流に遡りつつ、浮世絵をモチーフとしたアニメーションで映像紹介してゆくというものです。このパビリオンのメイン シアターでは、フィナーレとして、今まで映像が流れていた巨大なスクリーンが割れて、本物の水を流す滝が現れるという演出を施しています。この滝のデザインにこそ、私たちは席のレイアウトよりもアタマを使うべきだと考えました。例えばアミューズメント施設で用いられるような擬岩という手法を使ったリアルに表現する方法も考えられます。また、葛飾北斎の「諸国滝廻り」をモチーフにしたデザインも考えられました。
いくつかの方法論や具体的な滝のモチーフを検証することを逡巡した挙句にたどり着いたのは、千住博さんの「THE FALL」をお手本に空間化するという方法でした。“シンプルな黒い背景をバックに神々しく水が流れ落ちる”というシーンです。この結果によって、日本人ならではの“多くの滝は神として崇められている”というニュアンスも伝えることが出来たかもしれません。
イマジネーションを沸かしてもらえるようなクリエイションって、絵画にせよ、イラストにせよ、彫刻や、建築や、音楽にせよ、デザインをする立場の人間だけではなく、生活する人びと皆が暮らしていくことにとって、非常に大切で私たちを豊かにしてくれるものなのだと思う次第です。